東京タワーって、なんでこんなに“かっこいい”んだろう
by tkf
2025.04.16
東京タワーは、遠くから眺めても美しい。
都市のなかに突き立つように立つその姿は、すでに絵になっている。
だが、その本質的な美しさ構造そのものが放つ緊張感や静けさは、
塔の足元に立って、真上を見上げたときにこそ、「真価」がある。
高さ333メートル。完成は1958年。
当時は世界一高い自立鉄塔だったその構造は、約4,000トンの鋼鉄でできている。
地上から見上げると、空へと向かって鋭角的に立ち上がる鉄骨の組み合わせが圧倒的な存在感を放つ。
幾何学的に組まれた鉄骨のフレームが空へと向かって立ち上がり、やがて一点に収束していく。
その視覚的体験は圧倒的で、どこかで見覚えがあるはずの形なのに、初めて出会ったかのような緊張感を伴う。
色彩も特異だ。
「インターナショナルオレンジ」と「白」で塗り分けられたその塗装は、航空法に準じたものだが、この実用色が、逆説的に東京タワーの存在感を際立たせている。
派手ではないが、艶やかで、凛としている。
機能性がデザインに昇華する例として、これほど説得力のあるものはそう多くない。
よくエッフェル塔と比較される。
どちらも鉄の塔だが、印象はまったく異なる。エッフェル塔は装飾性に富み、まるで巨大なレース細工のような優美さがある。
一方、東京タワーには装飾らしい装飾がない。
あるのは、構造そのものの美。
鋼材の交差、支柱の角度、光の入り方、そして空との対話。
近くで見ると、鉄骨の継ぎ目には無数のリベットが打たれている。どれも均一な間隔で、まるで工芸品の鋲のように整然と並んでいる。
建設当初、東京タワーを組み上げる作業には、職人たちの巧みな技が必要だった。
リベットを真っ赤に焼き、それを高所作業員に向けて投げ上げ、受け取った職人がそれを打ち込んでいくという技術は、今では再現できる職人がいないという。
溶接の跡、塗料のかすれ、鉄の微かな酸化が、歴史を感じさせ、その刻み込まれたディテールが細やかに彩りを与えている。
とはいえ、いまも絶え間ないメンテナンスが続けられている。
5年ごとに行われる全面塗装作業は、「塗り替え」という言葉では表現しきれない職人技の結晶だ。
インターナショナルオレンジと白の塗り分けは、高所での危険と闘いながら、 一本一本の鉄骨に向き合う作業員の手によって更新される。
風速10メートル以上では作業を中止するという厳しい安全基準の中、 晴れた日を選んで少しずつ進められるその作業には、約1年もの歳月を要する。
塗料は特殊な「フッ素樹脂塗料」が使われ、紫外線や酸性雨から鉄骨を守る。頂上に近づくほど、塗料は若干薄く調合される。
それは遠くから見たとき、大気の影響で色の見え方が変わることを計算した職人の知恵だ。
塔全体で使われる塗料は約28,000リットルにのぼり、もし単色で均一に塗った場合、東京ドームの半分ほどの面積を覆える計算になる。
夜になれば塔は光の衣を纏い、日中の幾何学的な美とは異なる、静かな詩情を放つ。
東京タワーの照明は、意外にも今なお現役のHIDランプ(高圧ナトリウムランプ)で支えられている。
秋冬春はHIDによる柔らかく温かなオレンジ色。夏にはメタルハライドランプに切り替わり、青白い光が塔の骨格をより涼やかに際立たせる。
一方で特別な日には、約7,000個のLEDが織りなす「ダイヤモンドヴェール」が塔を彩り、季節や祝日に応じて様々な表情を見せる。
2008年にはライトアップの一部がLED化されたものの、基本照明には依然としてHIDが使用されている。しかし、LED化が進む現代において、これらの光源はすでに生産終了が発表されている。
2026年3月、パナソニックのHID製造ラインが止まることで、今の光を維持することは難しくなっていく。
東京タワーの夜を支えてきたランプたちは、技術的にも在庫的にも、ゆっくりと終わりの時を迎えているのだ。
代替となるLEDは、エネルギー効率や制御性に優れる一方、従来のHIDが放っていた微妙な陰影や色の深みをそのまま再現するのは難しい。
単なる明るさではない、「記憶に残る光」の“質感”が、今後どう再構築されていくのかは未知数だ。
夜の東京タワーを支えるのも、やはり技術と手仕事の積み重ねであって、それすらも変わりゆくものだと、そんな事実にふと気づかされる。
電波塔として建てられた東京タワーは、戦後の日本が未来を信じていた時代に誕生した。
1958年の完成から、高度経済成長の象徴として都市の姿を見守ってきた。
1964年には東京オリンピックの映像を世界へ届け、日本の復興と躍進を内外に示す存在となった。
その後半世紀以上、東京タワーは変わりゆく都市の風景を見つめてきた。
かつて周囲に広がっていた低層の住宅街は、高層ビル群へと変化し、風景は時とともに大きく姿を変えていった。
2012年に誕生した東京スカイツリーは、電波塔の新たな担い手として東京タワーとは対照的な存在となった。
高さ634メートル、鉄骨と鉄筋コンクリートの融合による「心柱制振構造」を持つその塔は、最新技術を駆使した美しさを誇る。
伝統的な「そり」と「むくり(膨らみ)」を取り入れた曲線美のデザインは、東京タワーの鋭い幾何学的な直線美とは異なる表情を見せる。
二つの塔は、まさに時代の違いを反映した美学と技術の鏡として、東京の空に並び立っている。
時代の役割を終えたとも言われる東京タワーだが、その飾り気のない構造の中には、今もなお変わらぬ希望を無言のまま示しているように思える。
日々、東京タワーは夜の闇に溶け込むまで、その存在感を保ち続ける。
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